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福島家庭裁判所 昭和48年(家イ)301号 審判 1973年11月28日

申立人 池田進助(仮名)

相手方 池田勝(仮名) 昭四八・四・二七生

右法定代理人親権者母 池田真佐子(仮名)

主文

申立人の嫡出子出生届出による相手方に対する認知は無効である。

理由

本件調停委員会の調停において当事者間に主文と同旨の審判を受けることについて合意が成立し、かつ、原因たる事実関係について争いがないので、当裁判所は必要な事実を調査したところ、記録編綴の戸籍謄本および申立人、相手方法定代理人の各審問結果によつて、次の事実関係を認定することができた。

相手方は、相手方の母真佐子が昭和四八年四月二七日生んだ子であり、真佐子と申立人との婚姻は同年一月一八日婚姻届出によつて成立したものであるから、民法第七七二条によつて申立人の嫡出子としては推定を受けないものであるが、申立人が同年五月一四日相手方を申立人と真佐子との間に生まれた長男として嫡出子出生の届出をしたため、これが受理され、その旨戸籍に登載されて現在に至つている。従つて、戸籍法第六二条、民法第七八一条第一項の適用上、その出生届出によつて申立人が相手方を認知する効力が生じているといわなければならない。

しかし、相手方は受胎後九ヶ月の未熟児として出生したものであるところ、その受胎当時相手方の母真佐子は申立人と肉体関係を持つたことはなく、申立人以外の男性との性交によつて受胎したことが窺われ、鑑定人赤石英の鑑定結果によつても申立人と相手方との間には父子関係は存在しないことが認められる。また、申立人は、前記出生届出の当時自分と相手方との間に父子関係の存在しないことを確信していたから、嫡出子としての出生届出をする真意はなかつたのであるが、婚姻中の妻が子を生んだ場合には夫が父として出生の届出をしなければならないという誤解から、前記届出をしてしまつたことが認められる。

以上認定判示の真実からすれば、申立人の前記出生届出によつて効力を生じたものとされた相手方に対する認知は無効といわなければならず、上記戸籍の訂正を計るためにこの審判を求める適格と利益が認知者自身である申立人にもあるものといわなければならない。

よつて、家事審判法第二三条第二項に従い、主文のとおり当事者の合意に相当する審判をする。

(家事審判官 安倍正三)

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